僕が橋本珈琲を初めて知ったのは、9月に大子で開かれた「丘の上のマルシェ」でした。
写真を撮りながら、かみさんと会場を歩いていると、見たことのない看板が立っていたんです。
「文化財喫茶」という表示に惹かれて一杯試してみたのですが、この時飲んだコーヒーが実に美味しかったこと!
良い豆を使って丁寧にブレンドされているのが感じられました。
お店の方に伺うと真壁に実店舗があるとのこと。
そのうち行ってみようと思っているうちに時間が経ってしまい、コーヒーの味と「真壁」という言葉だけが心に残っていたのですが、たまたま立ち寄った上野沼の「森コミいち」で再会することになりました。
これも何かのご縁なんでしょうね。
というわけで、念願の真壁にやって来たのですが、予想に反して、そこにあったのは喫茶店ではなく旅館でした!
橋本珈琲は、橋本旅館の1階に併設されたカフェなんです。
というわけで、カフェに入る前に旅館について。
ここには元々、江戸時代の終わりごろ、代々医業を営んでいた仁瓶家の屋敷があったそうです。
そこへ下総国栗橋(現在の茨城県古河市辺り)出身の松蔵という人物が屋敷を借りて旅館を開き、奥さんの実家の「橋本屋」を称したのが始まりとか。
後に松蔵は仁瓶家の養子となって5代目を継ぎ、それ以降ここは代々旅館の経営にあたったそうです。
現在の建物は、昭和4年(1929年)に7代目が建てたもの。
1929年といえば、 ニューヨーク証券取引所で株価が大暴落して世界恐慌が始まり、県内では、石岡で大火事が発生して町の中心市街地の4分の1が焼失した年。
日本は太平洋戦争とその後の第二次世界大戦に向かっていった暗い時期です。
幸い橋本旅館は火事や戦災に遭うこともなく、東日本大震災も乗り越え、国の登録有形文化財となって、昭和初期の旅館建築を今に伝えています。
初めてここに立った時、僕の頭に浮かんだは「那須ホテル」でした。
映画「犬神家の一族」で石坂浩二さん演じる金田一耕助が泊まった宿です。
あの時代の旅館建築って似ているんですね。
玄関のガラス戸をガラガラッと開けると、大きな柱時計や階段があり、多少改装されているとはいえ、往時の雰囲気が伝わってきます。
2階へ行ってみましょう。
道端で故・坂口良子さんが演じる女中さんと出会ったり、宿帳を持って現れてもおかしくないような気がするのは、ここが真壁だからでしょうね。
遠くには那須ならぬ筑波山系の山並みが広がってますし。(笑)
橋本旅館はドラマや映画の舞台となってもおかしくない雰囲気ですが、実際、2006年に「伝説の秋田犬ハチ」の撮影がここで行われました。
では、カフェの方に行ってみましょう。
2013年の3月にオープンした橋本珈琲オーナーの小貫恵美子さんは、旅館の10代目女将。
東日本大震災直後に父親を失い、旅館の経営を担うことになった時、「由緒ある歴史的建造物を活かし、コーヒーを楽しめる場所を提供したい」という思いから、喫茶スペースをつくることを思い立ったそうです。
中に入ると、旅館の古い建具が活かされ、北欧の家具と調和して、落ち着いた良い雰囲気。
縁起棚(商売をしている家が縁起を担いでつくる神棚)もあります!
店舗のデザインは古河市の加藤誠洋氏、施工は筑西市の郡司建築工業所が手がけ、2013年のグッドデザイン賞、茨城デザインセレクション知事選定を受賞しているんですよ。
グッドデザイン賞は、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「総合的なデザインの推奨制度」で、様々な応募対象から「よいデザイン」を選ぶことで、暮らしや産業、社会全体をより豊かなものへと導くことを目的に、「身体・人間」、「生活」、「産業」、「社会・環境」の点で対象が提供できることを基準に選定されます。
茨城デザインセレクション知事選定は、茨城県の産業イメージやブランド力を高める優れたデザインを選定し推奨することで、デザインの重要性の啓発と地域産業の発展を推進するものです。
橋本珈琲は、震災で被災した旅館を地域の拠点づくりを視野に入れてリノベーションしたこと、 歴史的建造物が数多く存在する真壁の将来を見据え、災害に対する備えと地域コミュニティを活性化するという目的が高く評価されたようです。
橋本珈琲のメニュー
橋本珈琲の料理やデザートは、すべて手作りで、地元桜川市で採れた材料を主に使用しています。
桜川市の小麦ゆめしほうで作ったベーグルやスコーン
桜川市のふくれみかんを使ったジェラード(季節限定)
桜川市のとちおとめ自家製シロップかき氷
などなど。
そして特筆すべきは、真壁の酒造元「西岡本店」や五所駒瀧神社の食材を使った料理。
西岡本店の明笑輝の酒粕を使ったシフォンケーキ、桜川産の丹波の黒豆あん添え
西岡本店の麹を使った国産鶏肉の塩麹のポワレ
花の井の仕込み水を使ったかき氷
花の井の梅酒
五所駒瀧神社の古代米
などなど。
真壁には、「桜川本物づくり委員会」というまちづくり団体があり、そこに橋本珈琲、西岡本店、五所駒瀧神社も加盟していて、桜川市の農作物を使った「新しい特産品」づくりにチャレンジしているんです。
僕らがここを訪れたきっかけも「森コミいち」で食べた五所駒瀧神社の古代米でした。
というわけで、今回いただいたのは「いも豚のポークソテーランチ」。
スープ・サラダ・五所駒瀧神社の古代米が付きます。
いも豚は、さつまいもやキャッサバ芋(タピオカの原料)などを主に飼育された銘柄豚で、純植物性の飼料だけで飼育されるため、豚肉特有の臭みがなく、甘く柔らかな歯ごたえが特徴です。
古代米をつくっている五所駒瀧神社は、平安時代(1014年)に創建された由緒ある神社です。
この古代米は、五所駒瀧神社の宮司さんが四国の神社から分けてもらった種籾から美味しいものだけを選りすぐり、自家水田で栽培したもので、もちろん無農薬栽培。
なんとも言えない素朴な味わいと食後の満足感が印象的。僕らを魅了したのはコレですよ!
さらに食後に頼んだコーヒーが絶品でした。
橋本珈琲オーナーの小貫恵美子さんは、美味しいコーヒーを淹れるために専門学校で学び、生産地や栽培法、生産者といった「コーヒー文化」を独自に研究し、専門店に勤務しながら勉強を重ねたそうです。
豆は土浦の「ニコニコ珈琲」のものを使用し、抽出はネルドリップ中心。
真壁の水の良さと相まって、えぐ味や雑味が全くなく、コクと深みがありながらさっぱりとした味わいの一杯となります。
エスプレッソマシンはイタリア製のものを使っていて、カプチーノやラテも本格的。
ラテアートも良い感じでしょう?
この自家製ジェラートを使ったアフォガートをいちど試してみることをお勧めします。
かなり本格的な美味しさですよ。
橋本珈琲は地元の人も利用するコミュニティスペースなので、子連れの方も利用できますし、大人数で来店する場合も、旅館2階の座敷を利用できるので安心です。
筑波山登山や桜川のサイクリング、雛まつりで賑わう真壁の街歩きの途中で疲れたら、ここで一休みすることをお勧めします。
期待以上のくつろぎ感と美味しさに出会えることでしょう。
ごちそうさまでした。どれもとても美味しかったので満足です♪ また来ますね!
ディナーは18:00~21:00で、4名以上、ひとり3,000円から(3日前までに電話で予約)。
旅館の方は、朝食付きで一泊5,800円で泊まることができるそうです。
橋本旅館と橋本珈琲への行き方・駐車場
真壁町は現在電車が通っておらず、特定の時期以外はバスも通っていないため、観光シーズン以外の時期に行くには、車やバイクしかありませんが、道路はわかりやすいです。
笠間方面や筑波方面からは県道41号線、下館(筑西)方面や八郷(石岡)方面からは県道7号線で行けます。
駐車場はお店の裏に10台分くらいあります。
橋本珈琲/橋本旅館
茨城県桜川市真壁町真壁410 0296-55-0007
月~土曜 11:00~18:00 日曜/祝日 11:00~17:00 火曜定休