今回真壁に行くきっかけとなったのは、上野沼の「森コミいち」で売られていた「ちとせむすび」でした。
おむすびが「縁結び」になったというわけです!
お米は五所駒瀧神社の御神米で、握ったのは真壁の「伊勢屋旅館」という旅籠だとか。
「旅籠」って時代劇なんかに出てくる旅館のことだよね。
なんで「旅籠」って言うんだろうね。
そう言われると、「はたご」って呼び方も?じゃない。
ちょっと調べてみようか。
デジタル大辞泉によれば・・・
[note]はた‐ご【旅=籠】
1 「旅籠屋(はたごや)」に同じ。
2 昔、旅行のとき、馬の飼料を入れて運んだ竹籠。〈和名抄〉
3 旅行用の食物や日用品を入れた籠。また、それに入れた食物。
4 旅館の食事。
5 「旅籠銭(はたごせん)」の略。[/note]
「はた」というのは元々「馬の餌」を指すみたいだけど、
鉄道や自動車が現れる以前は、馬に乗って旅に出かけたのかな。
ヨーロッパ映画とか観ると「馬車」で旅に出るシーンがあるけど、
日本だと馬はあくまで輸送用か武士階級のものだったみたい。
江戸時代に入って街道が整備されるようになっても
最初は参勤交代とか藩に戻る武士とか、行商人が大半だったとか。
じゃ、お伊勢参りとか金毘羅参りとかは?
そういう物見遊山の旅が広まったのは、江戸時代の後期みたいだよ。
「東海道中膝栗毛」もその頃だったよね。
そう。「膝栗毛」っていうのは「膝を栗毛の馬の代わりにして旅をすること」で、
昔の旅はもっぱら歩きだったんだよ。
そりゃ、大変だ。
そうだね。しかも、早朝のまだ暗いうちに出発して、
8里~10里(30km~40km)くらい歩き、
日が沈んで暗くなる前に宿に着くようにしたんだって。
今と違って夜道は真っ暗だし、追いはぎとかも出て危険だったろうね。
うん。だから街道沿いに宿場がつくられ、利用できるようになったわけだけど、
一般人が宿泊できたのは「旅籠」か「木賃宿」だったんだって。
なるほど。身分で泊まれるところが決まっていたのね。
そう。旅籠は食事付きの宿で、木賃宿は自炊する宿。
なるほどね。
馬だけじゃなくて人にも食事が付くから「はたご」って呼ばれるようになったわけね。
そうなると、経済的に余裕のある人しか旅籠に泊まれなかったんじゃない?
そうだろうね。
旅籠は1泊2食付きで200文~300文(3000円~5000円位)が
相場だったみたいだし、今のビジネスホテルみたいなものだよね。
余裕のない人は野菜や米なんかを調達して木賃宿で自炊したんだろうし、
昔は旅行するのも大変だったのね。
そうだね。
ところで伊勢屋さんに泊まれるか聞いてみようか。
もしもし・・・女将さんが言うには、1泊2食付きで6800円だって。
やっぱり旅籠だね!
ということで、真壁の伊勢屋旅館に泊まることになったのでした。
出発当日は天気が心配でしたが、午後には降り続いていた雨も上がり、
宿につく頃には、空の向こうに足尾山が顔を見せてくれたので、
真壁の町に歓迎されているような気がしました。(笑)
初めて来たけど、すごいところだね。同じ茨城とは思えない街並み。
そうだね。違う時代にタイムスリップしたみたい。
ところで伊勢屋旅館は・・・
あった!あれだ。
こんばんは~。
メェリィークリスマス!
このサンタしゃべるし動くよ!
は~い。お待ちしておりました。お上がりください。
お部屋は2階です。こちらからどうぞ。
この間の「森コミいち」のおにぎり、こちらでつくったんですってね。
とても美味しかったですよ。
2度買いに来た夫婦がいたっていうのは・・・
そうです。うちのことです!
そうだったんですか!あれは「五所駒瀧神社」の御神米なんですよ。
お米が良いから塩しか付けないことにしたんです。
いやぁ~それで良かったと思いますよ。
塩だけで十分美味しいし、その方がご飯が引き立ちます。
そうですか!ところで夕食は何時にしましょうか?
6:00頃でお願いします。
わかりました。その前にお風呂にしましょうか?
そうですね。お願いします。
というわけで、部屋で一息ついていると、部屋の電話がけたたましく鳴り、
風呂の準備ができたとのこと。テンポの良い旅館です!
お風呂は主屋の隣にあるので、1階に下りてこんな板の上を渡って行くんです。
なんだかとても懐かしいような、新鮮な感じ。(笑)
中は普通の家庭のお風呂をちょっと広くしたくらい。
温泉ではありませんが、とても良い湯加減でした。
湯上がりに部屋でくつろいでいると、再び電話が鳴って、
夕食の準備ができたとのこと。テンポが良いですね!
夕食は1階のコタツの部屋に用意されていました。
メニューも普通の旅館とは違って、シンプルな田舎の家庭料理風。
なんだか親戚の家に泊まりに来たみたいで面白いです。(笑)
あれ、お兄さん東大の航空学科出てるんですか?パイロット?
航空学科出たんですけど、これからの時代は飛行機じゃないって、
結局会計士になっちゃったんですよ。
そうなんですか。もったいないですね。ビール1本もらえますか。
は~い!料理の写真撮られると、自分が写真を撮られてるみたいで恥ずかしいわ!
味噌田楽とけんちん汁が美味しい!
旅館の料理って食べ疲れて印象に残らないことが多いけど、
こういう素朴な料理はしみじみしてて良いよね。
そうだよね。
それと、ここのお米もやっぱり美味しい!真壁は米どころなのね。
これ「ちとせむすび」の漬物だね。ここで漬けてるみたいだけど、ご飯とよく合うなぁ。
真壁は水が良いんだろうね。お茶も美味しいわ。
ごちそうさまでした。この辺に一杯飲めるようなところありますか?
真壁伝承館の前に「一平」っていうお店があるから行ってみたらどうかしら。
地元の人が行くお店だし、焼き鳥美味しいですよ。
じゃ、行ってみます!
あ、表閉めちゃったからこっちから出て。雨降ってるから傘使ってくださいね。
旅館のサンダルを履いて、傘さして、ふたりで夜の真壁を散歩。
お鮨屋さんも開いてるけど、確かに真壁の夜は早いみたいだね。
あったあった、「一平」。ここは創業60年の焼き鳥屋なんだって。
メニューは・・・どれも安い!
じゃ、若鶏ももと若鶏にんにく2本ずつと、野菜サラダください。
タレか塩、どっちにしますか?
じゃ、塩で。日本酒は何を置いているんですか?
地元の「公明」になります。
じゃ、それを1合。
今日は平日のせいか、僕ら以外にお客さんは2組。どちらも地元の年配の方たち。
「いやぁ~今日はよ、みんなでここに来れて、こうやって酒も飲めて良かったよ!」
「そうだなぁ。昔よ、一緒に◯◯で飲んだことあったよな・・・あの時によ・・・」
片方は友人の誕生祝いのようですが、どちらもすでに出来上がっていて、かなりご機嫌で良い感じです。(笑)
お、来たよ!このサラダ、もっと少ないのかと思ってたけど、このボリューム!
本当だ!安いのにサービス良いよね。野菜が新鮮!
この焼き鳥も美味しいよ!ここは秘伝のタレが名物みたいだけど、塩も良いよね。
お酒もこんな器で出てくるし。「公明」初めて飲んだけど、なかなかいいお酒じゃない?
そうだね。この近くでつくってるみたいだけど、焼き鳥によく合うよね!
じゃ、そろそろ帰ろうか。あれで1050円だって!
やっす~い!!お通しはタダだったってこと?
そうみたい。近所にこんな店があったら通うんだけどなぁ。
そうだよね。ここは良いお店だよ。
部屋に戻ると布団が敷かれていたので、そのままぐっすり・・・
翌朝目が覚めると、快晴。
窓から筑波山がよく見えます!
すると、電話のベルが・・・おはようございます!朝ごはんの用意ができました。
おっ、時間通り。相変わらず良いテンポ。
再び1階のこたつの部屋へ。
今回も素朴なメニューで、どれも美味しい!
食後に出されたコーヒー(これがまた美味い)を飲みながら、しばし歓談。
昨夜はどうでした?
あぁ、「一平」良かったですよ。焼き鳥美味しかったし、
地元のおじさんたちが楽しそうで良かったです!
そうですか!それは良かった。
ここは元々旅館だったんですか?
うちは江戸時代の終わりごろからここにあったみたいですが、
2代目の時は旅館ではなく「勢州楼」という名前の料亭だったんです。
当時は「男は勢州楼で宴をあげれば一人前」と言われるくらい真壁では最も名の知られた料亭だったそうです。
現在のこの建物は、3代前の田中萬蔵が明治の中期に建てたものです。
橋本旅館の昭和初期の旅館建築とは違って、こういうのを「町家」って言うんですよね。
(町家:日本の民家の一種で、通りに面して立ち並ぶ、店舗併設の都市型住宅。)
裏手にある土蔵は、窓の部分を震災前に新潟県の宮澤喜市郎さんに直していただいたので、びくともしませんでしたが、手をつけなかった屋根や壁が崩れてしまいました。
瓦を取り野地板を剥がしたら、垂木の脇にこう書いてありました。
明治28年8月30日
建之 田中 萬蔵
100年以上も前の字なのに、はっきり書いてあってびっくりしました!
壁の漆喰の下も何層にもなっていてすごかったです!
明治28年といえば、1895年。日本は日清戦争で清国に戦勝して下関条約が調印され、
樋口一葉が小説「たけくらべ」の連載を開始した年ですよ!
足掛け2年の修復作業も無事完了し、蔵は往時の美しさを取り戻しました!
では、中へ入ってみましょう。帳場や長火鉢もあり、銭形平次を思い出します。(笑)
外から差し込む光に照らされ、風情があって良い感じですよね。
2階の客室は大部屋と小部屋があり、僕らが泊まったのは新しい建物にある小部屋。
登録有形文化財の大部屋の方も宿泊でき、
ここでさまざまなイベントなども開かれるようです。
これは10回以上開催され、毎回好評を博している切り絵教室。
真壁には「真壁切り絵の会」というグループがあり、女将さんも会員なんですって。
こういったイベントでは、地元の旬の食材を使った「特製ランチ」が用意されるそうです!
これは「ゴールデンウイーク限定ランチ」。
海老が美味しそう!
僕の大好きな栗ごはんも!
どれも手作りの逸品ばかりですが、たくあん用の大根だって、
自分のところの畑で抜いてきて、旦那さんと漬けてるんですって!
最後にこの旅館を切り盛りする美人女将、田中良枝さんをご紹介しましょう!
良枝さんはスーパー元気で明るい方なので、伊勢屋旅館には笑顔が絶えません。
また、「桜川本物づくり委員会」というまちづくり団体にも参加して、
真壁を盛り上げるために活躍しているんです。
初めてお会いしたのに、前から知り合いだったような気のおけない人柄が魅力的で、
個人的には「真壁の坂口良子」だと思っています。(笑)
伊勢屋旅館は四季を通じて宿泊したり、ランチで利用することができますが、
特にひな祭りの時期には他店と同様に多くの人で賑わいます。
真壁に行ったらぜひ立ち寄ってみてください。心の通う語らいと温かい歓迎が待っています。
伊勢屋旅館への行き方・駐車場
真壁町は現在電車が通っておらず、特定の時期以外はバスも通っていません。
観光シーズン以外の時期には車やバイクで行くしかありませんが、道路はわかりやすいです。
笠間方面や筑波方面からは県道41号線、下館(筑西)方面や八郷(石岡)方面からは県道7号線で行けます。
駐車場はお店の隣に5台分くらいあります。
伊勢屋旅館
茨城県桜川市真壁町真壁193 0296-55-0176
最近子のサイトを知って、楽しく読ませて頂いております。
落ち着いた知的な文章がとても読みやすく、気に入っております。
伊勢屋旅館の写真のなかで、切り絵のお話がありましたが、「そう言えば
大学時代の友人のT君はあのあたりでは有名な切り絵師だったなあ….。」
なんて思い出していたら、写真に本人が出てきてビックリ。
思わずコメントに書き込んでしまいました。
久しぶりの再会に嬉しいです……って会えたのはこっちだけか。
ありがとうございました。
小野様
コメントをありがとうございます。
忙しいと更新を怠けてしまうのですが、楽しんで読んでくだっている方がいるのがわかると、とても励みになります。
伊勢屋旅館では、定期的に切り絵などのイベントが開かれていて、多くの人で賑わっています。Tさんも常連のようですよ。
今後も期待に添えるような記事を書けるように精進いたしますので、よろしくお願いします。